十周年の対談
これまでのカキモリ

前編vol.15

今から10年前の2010年11月23日。

蔵前に「カキモリ」という小さなお店をつくりました。

10周年の節目に、立ち上げ時から携わってくれていた関さんと河田さん、広瀬の3人で対談を企画。

10年たった今だから言える話、これからの話。スタッフもはじめて聞くような話をたくさん伺うことができました。

お話を聞いた人

広瀬 琢磨:
カキモリの代表。
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関 宙明:
ミスター・ユニバース代表、アートディレクター。「カキモリ」という名前やロゴの生みの親。

河田 将吾:
チームラボアーキテクツ代表、建築家。カキモリ・インクスタンド店舗の設計・デザインを担当。



三人の出会いと雑談が、カキモリのはじまり。


広瀬:
最近3人で会ったとき、河田さんが「この時代、実店舗が続くのは奇跡」と話していたのが記憶に残っていて。カキモリも、10年あると思ってなかったんですよね(笑)?
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河田さん:
今は思ってないけど、広瀬さんが僕の事務所に来て「文房具屋をやりたい」って言ったときは、正直、無理でしょって(笑)。 インターネットがあらゆる業界を揺さぶる中、特に打撃を受けるのは小売り。文房具屋さんなんて、当時から駅ビル店しか残らないだろうなと思っていたし、しかも蔵前で……この人大丈夫かって。
広瀬:
あの頃の蔵前は、物件選び放題でしたね(笑)。
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河田さん:
でしょうね(笑)。ただ話を訊くと、広瀬さんの中には物語がある。それにお客さまが共感してくれたら、いい店になるかもしれない。蔵前にわざわざ来る理由ができれば、逆に都心からの距離がメリットになる。そんな話をした気がします。
広瀬:
河田さんには、「街の再開発みたいな外部要因に頼らず、自力で頑張らないと。初期投資を渋るのもダメ。1店舗目に100%力を注げ」と言われたことを覚えてます。
hirosesan
河田さん:
オンラインで世界中から物を買える時代には、世界一の文房具屋にならないと、わざわざ人は来ないからね。
2010年オープン当初のカキモリ
2010年オープン当初のカキモリ
広瀬:
ところで、関さんがカキモリに関わってくれたのは何故でしたっけ?
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河田さん:
僕がお願いしたんです。関さんはデザインが手仕事だった時代に、ベースを培ってきた人。デジタルが出す平均値とは違う美しいデザインが印象的で、御神体みたいな存在でもいいからプロジェクトに加わってほしいと(笑)。結局、神様をめちゃくちゃ働かせて、ディレクションはほぼ頼り切りです。
関さん:
そんな話、初めて聞いたよ! 河田君から「一緒にやらない?」って電話来ただけ(笑)。
広瀬:
カキモリの縦書きロゴも、エモーショナルな印象のコピーも関さんのご提案ですからね。河田さんと関さんと出会えたから、カキモリは形になった。
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カキモリとお客さま、蔵前とお客さまの接点づくり。

関さん:
僕の仕事は、コミュニケーションづくり。どういう接点でお客さまと関わっていくか、その関係性をどうしたらよくできるかを考える役割です。カキモリの場合は、あらゆる場面で「書くって楽しい」に触れられるようにしたいと思ってましたね。
ただの「街の文房具屋」にしないために、カキモリの物語を商品とともに手渡したい。そのストーリーのファンになり、リピートするお客さまが増えてほしい。そんな思いもあったなぁ。
河田さん:
関さん、店名も多彩に提案してくれましたよね。横文字系もあったし、「点と線」、「文字と人」とかもあった。でも広瀬さんが即決したのが「カキモリ」。
広瀬:
関さんの目を見たら、多分「カキモリ」推しだろうと感じて(笑)。というのは半分冗談で、一番しっくりきましたね。ロゴは、河田さんが「絶対これ」って言ってたと思うけど、記憶違い?
hirosesan
河田さん:
手の跡がしっかり感じられて、これだろうなと思った。
関さん:
書くことに関心がある方に「このお店はわかってくれている」と共感されるコピーやロゴって、どんな感じだろうと考えていましたね。河田君の店舗設計がソリッドな印象だったので、WEBサイトは蔵前という街になじませるイメージで設計しました。メディアの取材も呼び込みたかったから、カキモリのコンセプトを空気感も含めて伝えようとしてたね。
広瀬:
おかげでWEBサイトから取材の依頼が来て、カキモリを知っていただく機会が増えました。その頃、蔵前はほんとに人が歩いてなかったから……本当に感謝してます。
hirosesan

その場所を始めた、広瀬さんに似合う場所に。



広瀬:
取材で時々、「カキモリの内装に込められた意図」を訊かれて、「下町らしさと下町らしくなさ、古さと新しさのミックス」みたいに答えてきて……今更だけど、合ってます(笑)?
hirosesan
河田さん:
全然違うこと言ってもいいですか(笑)。設計時に意識したのは、広瀬さんに調和する空間であること。スタッフさんも、広瀬さん自身や、人柄がにじむ店に集うわけだから、まずは広瀬さんに似合う店。その次に蔵前に似合う店、最後に、来るだけでうれしくなる空間を目指したんです。
関さん:
今の店舗は年齢層が少し上というか、上質な雰囲気だよね。
河田さん:
そうですね。カキモリも年々変化しているから、特にこれからインクスタンドが移転する2階の設計は少し背伸びしたイメージです。最初の店舗は、入口に大衆的なペンが置かれてたよね。多分、親しみやすさの演出だったと思うけど、今の店舗はそうじゃない。広瀬さん自身の考えや感性も変化しているんじゃないかな。店の方向性は、直感で決めてるんですか?
広瀬:
基本は直感ですね。でも、スタッフも増え、多方面に関わりができて、カキモリに期待されていることも変わってきた。自分の直感を信じればいいのか、みなさんの意見を重視するのか……。ただ、これまでの感覚的なチャレンジはカキモリらしさかな。
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誰もやってないから、楽しそうだから。


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河田さん:
「たのしそうだしやってみよう」は、カキモリらしさだと僕も思う。オーダーノートもそうだった。
広瀬:
最初は、オリジナル商品をつくろうなんて考えてなかったですね。「カキモリに来てもらうには、強く惹きつけられるストーリーとか、きっかけが必要だ」と雑談する中で、「その人のためだけの商品」がキーワードになった。
hirosesan
関さん:
広瀬さんがすごいのは、その雑談を現実に落とし込めること。「オリジナルのノートとかつくれたら楽しそうだね」と盛り上がって次会うと、「こういう機械で、リングノートならつくれるみたい」と提案してくれる。
河田さん:
インクスタンドはどうだったっけ? 広瀬さんから突然「オーダーインクやってみたい」って言われた気がするんだけど。
広瀬:
オーダーノートがなんとか軌道に乗って、次はオーダーファイルかオーダーインク、どちらかやってみようと考えたんです。ただ、インクを候補にしたのは「子どもの頃、絵の具を混ぜるの楽しかったな」と、ふと思い出したっていう単純な理由。
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関さん:
オリジナルインクを自分の手でつくるって面白いし、すぐやるべきだと思った。でも、僕と河田君が大賛成したのに、言い出した広瀬さんが「本当にそう思う?」って半信半疑。2人で励ましたの覚えてますよ。(笑)。
広瀬:
2人の後押しのおかげですね(笑)。インクスタンドも、ある時からインクが足りずに一時クローズするほどになった。お客さまが来てくれた理由ってなんだったんだろう。
hirosesan
河田さん:
僕、広瀬さんのこういうところがいいなと思う。文具業界とか東東京界隈でそこそこ有名人のはずなのに、いまだに考えこむし、謙虚(笑)。インクスタンドが人気になった理由ね……子どもの頃の広瀬さんが素直に感じた「たのしい!」に共感してくれた方が、結構いてくれたってことじゃないかな。



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