人がいて、町がある。
当たり前のことが変わりつつある世の中で
これからも残してゆきたいもの。
木村紙工所さん
浅草線蔵前駅のすぐ裏側。このあたりにはまだ小さな町工場が残っています。
かつてこの辺りは、玩具や文具、紙問屋など多くの問屋が軒を連ね、その加工を請け負う町工場がたくさんありました。
しかし最近では、マンションへ建て替えられるところも増え、少しずつ街の風景が変わってきました。
そんな中でも木村さんは、日々のものづくりを通して日本の多彩で精緻なプロダクトを支え、下町の多様な文化を守り続けています。
断裁には印刷前に行う「
カキモリさんの仕事は、
難しいものが多いね。
木村社長(左)と田村さん(右)
「ノートの表紙なんかは、貼り合わせになっていたり、紙に厚さがあるから、ぶかぶかしたり、それぞれ少しずつ違う大きさだったりするから難しいんだよ」と、木村社長。
「あとは、気候も影響するね」
雨の日が続くと仕事が進めづらいそうです。
湿度が高いと紙は水分を吸収して伸び、湿度が低くなり水分を放出すると縮みます。でも、納品で寸法が違ってはいけないので、部屋の温度や湿度を一定にしたり、一つの注文は同じ気候で極力進めるなど、人知れないご苦労もあるとか。
「小さなものほど難しいね。ずれてしまうから、一度に大量には切れない。難しいというか、気を使う」と、田村さん。
断裁機は、紙の束に均一に圧力をかけ、刃が降りる構造です。木村紙工所さんでは、近隣の玩具問屋さんからの注文で、おもちゃに付属する、小さな台紙や説明書の断裁なども多く、特に面積の小さなものは、圧をかけるのが難しくずれやすいようです。
田村さんの後ろにある神棚。朝のご挨拶は欠かさないそうです。
改めてカキモリからお願いしているものを考えました。
和紙のように嵩があるものから、フェルトを貼り合わせた表紙など、難しいものが多いようですが、私たちは、それをまるで認識していなかったことに気づきました。
中紙も数十種類の紙を断裁してもらっていますが、製本で組み合わせた時もほぼズレが無い完璧な仕上がりです。
わずか一瞬の出来事なので、紙をさばいているように見えますが、実は10枚ずつ間に指を入れて数えています。
満足にできるようになるまで10年はかかるとか。
木村さんは1941年生まれ。
80歳近くになる今日も、カキモリに重たい紙の納品に来てくださり、軽々と全判の紙束を断裁機に乗せています。
とても元気で若い木村さん。今後のことを少しお伺いしてみました。
「息子は継ぐ予定はないので、このまま後継者がいなければ、無くなってしまう可能性もあるんだけど、それより紙が出ない、世の中で印刷物が使われなくなってきたことがやはり影響してて、ずいぶん周りの仲間もやめてしまったな。」
カキモリがオープンした2010年。オーダーノートを始めた際、まだ縁もゆかりもない私たちに、製本所さんや印刷所さんなど近隣の職人仲間をたくさん紹介してくださったのが木村さんでした。
オーダーノートの部材の加工から、仕入れまで、ほぼ全てを近隣の職人や問屋さんとの協力で行うことができたのは、木村さんのおかげです。私たちができる恩返しは、職人さんたちへの仕事をもっとお願いすることや、その仕事の素晴らしさをもっと多くの人に伝えていくことだと思っています。
いま、自分達が日々行っている商いが、近隣の皆さんと協業できていることを、当たり前のことだと思わず、日々感謝する気持ちをもち続けたいと考えています。
木村さん、今後ともどうぞよろしくおねがいします。
同じ町内にある蔵前神社。
変わりゆく町の姿を、これからも見守ってゆくことでしょう。